ドバイの農園

 

 

近年急速な経済発展を遂げたドバイでは、いまでも伝統的な生活様式が現地の人々により守られています。海岸沿いにある現在の中心街から車で約30分、アル・アウィール(al-Aweer)地域は、ドバイ首長国東側に点在する天然のオアシスの一つです。地下水が豊富なこの地域では、伝統的に農耕が営まれてきました。

 

地元でGhafと呼ばれるマメ科の高木(Prospopis cineraria)は、乾燥に強く、美しい常緑樹で、アラブ首長国連邦の国家を象徴する木とされています。ラクダの餌となり、また砂漠における日陰、そして薪として重宝されました。ナツメヤシ(デーツ)は、貴重な栄養源として、また建築資材、日本における竹のような手工芸の材料として、古くから人々に愛され、用いられてきました。この地の人々は、ラクダを使った交易の民の末裔として、真珠などの海の幸、近代では石油や天然ガスを主な交易品として外貨を獲得する一方、伝統的な居住地をオアシスに設営し、地域の気象環境に適応する作物を育て、自給していた歴史を持っています。

 

近年では、ヨーロッパから移入されたグリーンハウスを用いた栽培法も用いられていますが、夏季の厳しい気象条件に対応するために、通常、パッドアンドファン(P&F、気化冷却システム)が設置されています。このシステムでは、パッド部分に地下水を滴下させ、ハウスの反対側にあるファン(大型送風機)を駆動させることで、パッドを通過してハウス内に入る外気が、気化熱により冷やされる原理を利用し、ハウス内の温度を下げることができます。一方で、ハウス冷却用に大量の地下水が消費されることが、限られた地下水源を枯渇される一因として問題にもなっています。

 

一部、地域の利用可能な地下水の使用許容量を大きく上回った地下水が無計画に汲み上げられ続けたことで、土壌への海水の浸水を招き、地下水塩化が進行しているとされています。持続可能な農業への取り組みは、地元の実情に適応した範囲で、地下水の過剰利用を抑える必要があると共に、現地の多くの小規模農家の収入源を守るという問題も同時に解決する必要があります。

 

病害、雑草の少ない砂地、豊富な太陽光、冬でも温暖な気候など、適切な灌漑技術と組み合わせれば、植物の栽培に魅力的な条件が現地には存在しています。

 

 

ドバイ、アル・アウィール(Al-Aweer)の農園。園内には樹齢300年と言われるオリーブの木がある。

 

グリーン・ハウス内に設置された、パッドアンドファン(P&Fシステム)のファン部分。

P&Fシステムが稼働していない場合、ハウス内の温度は70度を越す。気化冷却の原理を使って、ハウス内の温度を下げている。

 

ハウス内ではパイナップルを栽培。

天井には日除けのための幕が備えられている。

 

砂地における栽培。

点滴灌漑用のホースを用いて、無駄な水の消費を防いでいる。

ナツメヤシの葉で作った屋根で、マンゴーの木などの日除けを作っている。